他人事ではない認知症のこと。
身近な問題として考えてみませんか。
先進国ではますます高齢化が進み、日本でもさまざまな問題の原因になっています。
社会的には、年金や医療費などのお金の問題が取りざたされていますが、個人としては、介護や終活など家族のつながりの問題につながっています。
高齢者だけの世帯にせよ、子世代などと同居しているにせよ、問題を深刻化させる要因のひとつが「認知症」ではないでしょうか。
政府の統計※によると、2012年時点で約462万人の認知症患者がいるそうです。
これは65歳以上の約7人に1人に当たります。
同じ統計で、2025年には、約700万人、65歳以上の約5人に1人が認知症患者という見込みも示しています。
つまりこれは、不幸な事故などのニュースで知る、遠い出来事ではなく、もう私たちの身近な問題になりつつあるのです。
私自身も年齢を重ねたせいか、最近では、友人知人が両親の認知症を話題にすることが増えている、と感じています。
物忘れや勘違いだけでなく、物盗られ妄想や徘徊、暴力や暴言などがあると、家族や周囲の人たちは、認知症の症状だと理解していても、傷ついたり疲弊したりするものだそうです。
本人を責めるわけにはいかないという事情は、想像以上に家族たちを苦しめています。
(※厚生労働省2015年1月発表)
「回想法」で認知症の症状を緩和できるかも。
認知症を完全に投薬などで治すことは、現在ではまだできません。しかし、さまざまな方法で、症状を和らげたり、進行を遅らせたりすることは可能だそうです。
そのひとつに「回想法」という心理療法があります。
簡単に言うと、昔のことを思い出して話すことで、脳の機能の活性化を図るという方法です。
確かに、高齢になると昔のことばかり話すようになるというのは、よく耳にします。
それは、認知症患者は、最近の記憶が難しくなる一方で、過去のことは多く覚えているからだそうです。
この傾向を利用し、楽しかった思い出、懐かしい昔の話を語ることで、コミュニケーションをとり、自然に脳機能を活発に働かせることができ、精神状態が安定したり、認知症の症状の進行を遅らせたり、という効果が期待できます。
古い写真をデジタル化して、懐かしい記憶を呼び覚まそう。
「回想法」は心理療法と書きましたが、堅苦しいものではなく、認知症の高齢者にとっては、レクリエーションのようなものです。
また、複数で行う「グループ回想法」は通常、専門家が立ち合いますが、1対1の「個人回想法」は、専門的な知識がなくても行うことができます。
認知症患者に思い出話をしてもらうためには、若い頃に使っていたものや、子供時代に遊んでいたおもちゃ、映画ポスターやレコードなどを用意して、それにまつわることを質問してみるとよいそうです。
もっと簡単に用意できるのが『昔の写真』でしょう。
品物などが残っていなくても、古い写真なら、ほとんどの家にあるのではないでしょうか。
古い写真を高齢者と一緒に見る際にオススメなのが、パソコンやタブレット、テレビなどに写真を表示することです。
整理されていない写真では、時系列がバラバラになってしまいますし、重いアルバムでは高齢者が扱いにくいと思います。
事前に家族が写真をデジタル化して、時間や場所、一緒にいる人などでフォルダ別にしておくとよいでしょう。
そのように整理をしておけば、高齢者の要望にそってスムーズに見せてあげることができます。
楽しく効果的な「回想法」を行うために。
長時間保存されていた品物は、きっと大事な思い出が詰まっているでしょう。
また写真は、現代のようにいつでもスマートフォンやケータイで撮影できるとしても、なにか残しておきたいことがあるからシャッターを切るのだと思いますが、昔は枚数が限られたフィルムを購入し、現像してもらう必要があるなど、いまよりもハードルは高かったはずです。
ですからそれらの写真は、そこに写っている人たちにとって、なにか特別なシーンだったのではないでしょうか。
楽しい旅行、記念日、久しぶりに会った友人、あるいは新たな出発や別れなど、人生の大小の節目だったかもしれません。
そうした昔の写真を見ながら、いろいろな話を聞いてみましょう。
思い出を自然に話してくれるのであれば、本人に任せて聞いていればよいと思います。
あまり言葉が出てこないようなら、写真を見せながら、「これは中学生の頃?」「どこかに旅行に行ったとき?」など、なるべく具体的に質問してみると良いそうです。
気をつけなければいけないのは、あまり本人が話したがらないように見えたら、それ以上質問を繰り返さないことです。
思い出の中には楽しいものもあれば、悲しいこともあるかもしれませんから。
また、写真と話しが食い違ったり、歴史的事実と異なることを話したりしても、それを指摘しないようにしましょう。
本人が思い出を誰かに話すことがなによりも大切です。聞くこと、同調することを心がけましょう。
古い写真を見ながら懐かしい話をするのは、単調になりがちな高齢者の生活にとって、とても刺激的で有意義なことだと思います。
認知症患者に限らず、また高齢者に限らず、誰にとっても思い出話をするのはよいものではないでしょうか。
写真のデジタル化が、そうした思い出を呼び覚ますきっかけになることを心から願っています。